脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

幸福感と関連する脳活動(2)

Urryらは主観的な幸福感(eudaimonic well-being, hedonic well-being, positive affect)と脳活動の関係を脳波計測をおこなって調べました。 まず、今回は、彼らが研究の中でおこなった主観的な幸福感の調べ方について説明します。 研究の中では、これらの…

幸福感と関連する脳活動(1)

接近・回避動機づけと前頭部非対称性の関係性については多くの研究があるにもかかわらず、幸福感の神経基盤を直接調べた研究は知られていませんでした。 Urryらは2004年に、この点に関する研究を行いました。84人の参加者(57〜60歳、右利き)に、eudaimonic…

子どもにとってシータは喜びに関連する脳活動である(らしい)

論文内の引用や、アブストラクトからの情報ですが、子どもにとってシータ帯域活動は喜びに関連する脳活動だと考える研究者たちがいるようです。 Kugler & Laub 1971によれば、4Hzの神経活動は、子ども(6ヵ月〜6歳)にとってpleasure-relatedな活動なのだそ…

プラシーボはプラシーボと明示しても効く

プラシーボを「プラシーボですよ」と明かした上で与えてもプラシーボ効果は生じるのでしょうか?ハーバード・メディカル・スクールの研究者たちがこの問題に取り組みました。参加者は偏頭痛を持つ66名の患者です。参加者たちには、偏頭痛が起きた時に服用す…

「眠気」は危ない

昨日はブログの更新をすっかり忘れていました。更新をお待ちいただいていたみなさまには失礼いたしました。本日は昨日の分と合わせて2回更新します。 広島で起きたトンネルでの自動車事故に関する新聞記事を読みました。 事故を起こしたトラックの運転手は…

子どもに映像コンテンツを見せたときの脳反応

子どもたちに映像を見せたときの脳活動に関する論文を探していたところ、 「話の展開に沿ってα波やθ波がピークを」見せた、とする論文を見つけました。 小学1年生2名、小学4年生1名を含む参加者に、ドラえもんやクレヨンしんちゃんの映画を見せたときの…

イチキュッパ、ニイキュッパの謎(3)

日本風に言えばイチキュッパ、ニイキュッパですが、アメリカについては99セント現象と呼ぶことにしましょう。4ドルよりも、3ドル99セントの方が買い手の受けがいいというわけですね。しかし、今回はそれとは違う方向から99セント現象について考察するのが狙…

イチキュッパ、ニイキュッパの謎(2)

アメリカのファストフード店には、 「店員がレシートをお渡しにならなかった場合は、マネージャーに伝えてください。当該の商品をタダにいたします。」 という貼り紙がしてあるという。その訳は? というのが昨日のクエスチョンでした。 何故なのか、理由は…

イチキュッパ、ニイキュッパの謎(1)

1980円、2980円のようなイチキュッパ、ニイキュッパ、その他399円や498円といったいわゆる端数価格ですが、街やテレビやチラシなどでよく見かけますね。 冷静に(あるいは別に冷静にでなくても)考えると2000円、3000円、400円、500円とほぼ変わらない価格な…

アルツハイマーと記憶:ラット研究

理化学研究所とMITのグループが、アルツハイマーのモデルマウスを使った研究で、アルツハイマー型認知症における記憶障害は、記銘ができなくなるのではなく、想起ができなくなることによって引き起こされている可能性を示唆する研究結果を発表しました。 ア…

補足:鉤状束と海馬傍回の位置

昨日のエントリーでは、非常に優れた自伝的記憶をもった人の脳研究を紹介しました。そこでは、側頭葉と前頭葉を結ぶ鉤状束(こうじょうそく)の白質の容積が大きかったこと、海馬傍回の白質の容積が大きかったことを紹介しました。今回は補足で、これらの部…

ジル・プライスさんの脳

以前紹介した優れた自伝的記憶の持ち主であるジル・プライスさんについての研究の紹介です。 2000年、ジル・プライスという女性が、記憶研究の第一人者である神経科学者James McGaugh(マッガウ)に、「自分は8歳以降のすべての日の、曜日、自分自身に起きた…

共感覚を見分ける実験

ある感覚刺激が本来引き起こす感覚以外の感覚を引き起こす現象を「共感覚」といいます。数字を見ると、黒い文字で印刷されているのに色がついているように感じる、というような現象が共感覚の例です。 あるモダリティの感覚入力が他のモダリティの感覚を引き…

コーヒーの味わいはマグカップの色から影響を受ける

マグカップの色がコーヒーの味わいに影響を与えるらしいというweb上の記事を読み、原論文にあたってみました。 実験1 透明のガラスのマグカップ、青色のマグカップ、白いマグカップの3種類のマグカップに温かいコーヒー(カフェラテ)を入れて参加者に飲ん…

メモ:非常に優れた自伝的記憶の持ち主

メモシリーズ、今回は優れた自伝的記憶の持ち主についてです。 ジル・プライス(Jill Price) 8歳の頃から、どの日についても、何曜日か、自分は何をしていたか、どのような重要な出来事が起きたかを詳細に記憶できるようになった。 プライス本人が、カリフ…

メモ:共感覚の有名人(3)

共感覚の有名人、3人目です。 タメット氏は、本も出版していて、テレビで紹介されたこともある有名な方ですね。 ダニエル・タメット(Daniel Paul Tammet) 共感覚のほか、アスペルガー症候群(=高機能自閉症)を抱えている。 非常に高度な記憶力を持ち、20…

メモ:共感覚の有名人(2)

シェレシェフスキーについては過去のエントリーでも取り上げました。 今回は、共感覚者としての可能性について述べます。 ソロモン・シェレシェフスキー(Solomon Veniaminovich Shereshevskii) 神経科学者のルリヤがシェレシェフスキーの能力について研究…

メモ:共感覚の有名人(1)

メモシリーズ、今回は共感覚の可能性のある有名人のご紹介です。 リチャード・ファインマン(Richard P. Feynman) 1965年、量子電磁力学の業績により、朝永振一郎やジュリアン・シュウィンガーとともにノーベル物理学賞を受賞した。 自伝的エッセイ「ご冗談…

Fmθの発見

Fmθ(えふえむしーた)として知られている、前頭正中部から取得されるシータ帯域活動の発見者は、石原務先生です。石原先生は1970年代からFmθという名称を使っていらっしゃるそうです。なので、発見から40年くらいは経っている、今や代表的な脳波測度のひと…

メモ:後天的な記憶天才

「メモ」シリーズです。 今回は、頭部への外傷等で、後天的にサヴァン的な能力を獲得したと考えられている人々の紹介をします。 オーランド・セレル: アロンゾ・クレモンズ:造形芸術家 --------------------- オーランド・セレル(Orland Serrel) 1979年1…

仮説検証型研究と仮説発見型研究(つぶやき)

今日は、データ分析のため散布図をたくさん見ていたのですが、あまりに数が多くて、なんだか情報がアタマから溢れ出てしまいそうな感じがしました。ふと思ったのが、今後、人工知能が発達すれば、自分がほしい情報にもっと簡単にたどり着けるのでは、という…

涙もろいのは前頭葉のおとろえが原因か?(5):補足

ちなみに論文を探す際に障壁となるのがコトバです。 「涙もろい」というコトバから、「感情失禁・情動失禁」というコトバまではかなり距離があります。普通は知らなければ思いつかない表現です。私も今回調べてみるまでは「感情失禁」というコトバは知りませ…

涙もろいのは前頭葉のおとろえが原因か?(4)

涙もろさと前頭葉の関係について考えてきましたが、1番の問題は、涙もろさをどう測るかです。ダイレクトな「涙もろさ」尺度がないか検索したところ、「思いやり尺度」の中に涙もろさについての設問項目をみつけました。 質問内容には 「自分は涙もろいほう…

涙もろいのは前頭葉のおとろえが原因か?(3)

涙もろさと前頭葉の関係について考察している論文を探してみました。 日本語では1993年の症例研究に、明示的な言及がありました。 脳梗塞で前頭葉の血流の低下がみとめられた76歳の男性患者さんが、怒りっぽくなったりする「感情失禁」の症状を来したそうで…

涙もろいのは前頭葉のおとろえが原因か?(2)

つづきです。 涙もろさについて調べるため、検索エンジンを使って「涙もろい 前頭葉」で検索した結果、NAVERまとめの記事が引っかかりました。 NAVERまとめ「なぜ、歳を重ねるごとに涙もろくなるのでしょうか?」 http://matome.naver.jp/odai/2135151730125…

涙もろいのは前頭葉のおとろえが原因か?(1)

だいぶ以前のことですが、「年をとって涙もろくなるのは、感情をコントロールする前頭葉が衰えてくるため、涙がこらえられなくなるせいだ」という説をテレビで見ました。そのときは、「そういう研究結果が実際に存在するのだろうか?」と思いましたが、その…

メモ:サヴァン症候群の有名な例(3)

サヴァン症候群の例のつづきです。 リチャード・ワウロ(Richard Wawro, 1952-2006) スコットランドの自閉症の画家。クレヨンで描かれた風景画で有名。 白内障の手術のため、左目はほとんど視力を失っていた。 本やテレビなどで見た風景を、驚異的な記憶に…

メモ:サヴァン症候群の有名な例(2)

今日はこれから実験があり、いまはプログラムの最終チェック中です。 念のため、最後までプログラムが止まらずに動くかを確認しています。 ここのところ、実験が立て込んでいて、なかなかに神経を使います。 では、サヴァン症候群の例のつづきです。 スティ…

メモ:サヴァン症候群の有名な例(1)

メモシリーズです。 サヴァン症候群で有名な人々の中をご紹介します。 下記のような人たちがいます。 ・キム・ピーク:書籍などの記憶の達人。映画「レインマン」の登場人物のモデル。 ・スティーブン・ウィルシャー:フォトグラフィックメモリーと思しき記…

メモ:ソロモン・シェレシェフスキー(Solomon Veniaminovich Shereshevskii)

シェレシェフスキーの能力について研究をおこなったのは神経科学者のルリヤである。シェレシェフスキーは、彼の名前の頭文字にちなんで、S(「エス」または「シー、シィー」(ロシア語でSはシーと発音する))と呼ばれていた。 シェレシェフスキーはモスクワ…