脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

鏡文字を観たときの脳活動

イタリアのルネッサンス期を代表する芸術家にレオナルド・ダ・ビンチがいます。レオナルドの活躍の幅は広く、芸術活動にとどまらない、様々な業績を遺しました。

 

レオナルドが鏡文字で書いた文書が残っていることは有名な事実です。

なぜ鏡文字だったのかについてはいろいろな説があります。秘密主義だったからだとか、左利きだったから鏡文字の方が書きやすかったから、などの説があります。(秘密主義云々は、鏡に映せば誰にでも簡単に読めるわけですから、違うのではないかと私は思うのですが…)

印刷のためだ、という説もあり、興味深くはあるのですが、手描きの文字を鏡文字にしておいて印刷に使えるのだろうか、という疑問も残ります。

いずれにせよ、天才のやることには、常人の考えの及び付かないところがあるのでしょう。

 

さて、鏡文字に関する脳科学的な知見の紹介ですが、鏡文字を認知している際の脳活動をfMRIを用いて調べた研究があります。

 

鏡文字を読むときには、後頭皮質、下側頭皮質、上頭頂皮質、小脳などがより活発に働くのです。

 

上頭頂皮質(superior parietal cortex)はメンタルローテーションの際にも活動することが知られています。

鏡文字を頭のなかで「ひっくり返す」ような、空間的操作に関わっているのだと考えられます。

(※実際に頭のなかでひっくり返しているのかまではわかりません。それに近い認知的な働きをしているであろう、ということです。)

 

下側頭皮質は文字認知に関与しています。

 

後頭皮質の一次視覚野も強く活動しましたが、これは鏡文字を読む際の注意(focal visual attention)を反映していると考えられます。

 

鏡文字を読むときには、様々な脳の領域の働きを総合していると考えられるのです。

 

追記1:

メンタルローテーションの研究では、一次運動野や運動前野の活動も起こることが知られています。まさに、心のなかで「回している」ことの証拠になるのかもしれません。

 

 

追記2:

なお、イタリアでは偉大な人物をファーストネームで呼ぶ(ガリレオ・ガリレイはガリレオ、ミケランジェロ・ブオナローティミケランジェロラファエロ・サンティはラファエロ・・・など)風習があるとのことで、レオナルド・ダ・ビンチもレオナルドと表記しました。

 

学部のときに受けた「美術」の授業で講師の先生が「レオナルド」「ミケランジェロ」などと呼んでいた理由がここ最近になってようやくわかりました。

 

【参考文献】

Poldrack, Russell A., et al. "The neural basis of visual skill learning: an fMRI study of mirror reading." Cerebral Cortex 8.1 (1998): 1-10.