脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

心理学や脳科学をどう活かす?(3)

ヒトが自分の感じていることや考えていることを正確に認識し、十全に言語化して他者に伝えることができるのであれば、心理実験や行動実験、脳機能計測実験をしてヒトの心に迫ろうとすることは基礎研究を行う学者にとってのみ興味のあることになってしまうのかもしれません。インタビューや質問紙調査(アンケート調査)を行うことによって、ヒトの考えや行動がすべて把握できるのであれば、わざわざ手間暇をかけて心理実験や脳計測を行うことは、(学術的な関心とは異なる)実務上の問題を解決する上では迂遠な方法と言わざるをえないでしょう。

 

しかし、ヒトは概して自分自身の感情や思考、そして振る舞いなど心身に起こっているさまざまな心理的・生理的事象に対して無自覚なものであることが、これまでの研究から知られています。

 

日常生活の中でも、「暑くないですか?」という質問をされて、自分が暑さを感じていることに気づいたり、不意に声をかけられて、自分自身がぼんやりと物思いにふけっていたことを自覚したり、人から自分では気づかなかったクセを指摘されて驚いた、などということはよく経験されることではないでしょうか?

 

さらには、「5分前と現在を比べてみて、心拍数、呼吸数、さらには脳活動(たとえば脳波の出方)にどのような違いがありますか?」と訊かれても、正しく答えられるヒトはおそらくいないでしょう。自分自身のカラダに起きていることだからと言って、ヒトはそれを定量的にも定性的にもほとんど自覚できていないのだ、ということがご理解いただけると思います。

そして、本人が自覚できないこれらの(いわゆる)生理データは、わたしたちがどれくらいリラックスしていたか、緊張していたか、何かに注意を向けていたか・・・などに関連する重要な指標となりうるものです。もし適切な方法でこれらデータを取得し、分析することができれば、多くの貴重な情報が得られるはずです。

 

また、生理データばかりでなく、行動データについても同じようなことが言えます。

ヒトがどんな選択をしたか、どんな作業をどのくらいの時間や正確さで遂行できたのかなど、行動データについてもヒトは多くの場合無自覚的です。しかし、行動は外部から観察できるため、適切な方法によりデータ取得が可能です。一歩進んで外部的な要因がヒトの行動に与える影響を知りたければ、適切な認知実験・行動実験を組んで分析を行う必要があります。

 

行動データや生理データをうまく分析することで、主観報告のデータからは得られなかった貴重な洞察が得られるかもしれません。

ここに、心理学的、脳科学的方法を駆使して、ヒトを対象とした調査研究を行うことの意義が見いだせるわけです。