脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

共同注意

今朝は雨でしたね。そろそろ東京も梅雨入りでしょうか。

昨日はよい天気で心地よかったのですが、すっきりとしたさわやかな晴れ空は、しばらくの間見納めかもしれません。

 

そんな昨日のことですが、会社の近くを歩いていたら、道端で赤ちゃんを抱っこしている女性を見かけました。

 

その女性は道路脇の歩道に立って、赤ちゃんの顔と道路を往くクルマとを交互に見やりながら、「おっきいトラックだねぇ〜」などと赤ちゃんに話しかけていました。

 

見たところ、赤ちゃんはまだ話もできない乳児でしたが、お母さんは声の調子に抑揚をつけて楽しげに声をかけ続けています。情操教育の一貫なのでしょう。這えば立て立てば歩めの親心、などとも言いますが、この世に生まれ落ちたからには、この世界の成り立ちを少しでも早く、広く、深く学んで欲しい、そんなお母さんの気持がにじみ出ているようでした。

 

私はこの様子を見ながら「おっ、共同注意(joint attention)を試みているのだな」と心のなかでつぶやきました。

 

心理学や脳科学では、ある特定の対象に意識を集中させることを「注意(attention)」と呼びます。まさに意を注ぐ、ということです。人に気をつけるよう忠告する意味での「注意」との混同を避けるために、英語のまま「アテンション」などということもあります。

 

そして、複数の人が同じ対象にいっしょに注意を向けることを「共同注意」と呼びます。お母さんと赤ちゃんが同じクルマに対して注意を向けているならば、2人の間に(視覚的)共同注意が成立した、ということが出来ます。

 

共同注意は、自分だけが何かに注意を向けるのではなく、他人が注意を向けているものに自分も注意を向けることを通して、他者の感情状態を推し量ったり、他者と感情を共有したりすることの基盤になってくる重要な心の働きのひとつであると言えます。

 

まだ、言葉も話せずぼんやりとしているように見える赤ちゃんの脳も、親を含む周囲の人の働きかけと自らの観察によって、世界の仕組みを理解しよう、コトバを獲得しようと一生懸命に働いています。共同注意を通して世の中のさまざまなモノ(おもちゃだったり、草花だったり、クルマだったり)に触れることで、赤ちゃんは世界の事物に注意を向け、さまざまな概念を獲得し、モノの名前を知るようになるのです。

 

さきのお母さんもそれを知っていて、赤ちゃんとの共同注意を成立させようとがんばっていたのかもしれません。

 

赤ちゃんの発達を科学的に解明し、その健やかな発達の道標を探るのも心理学や脳科学の大切な課題のひとつと言えるのです。

 

 

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