脳 Brain, No Life(仮)

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推論(2)

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、哲学的議論における詭弁や屁理屈など非論理的な主張を排除するため、論理学を構築しました。正しい三段論法の運用法をはじめ、論理的に妥当な推論とは何かを追究し、ひとつの思考体系としてまとめ上げたのです。

 

たとえば、「PならばQ」が前提であるとき、「Qでない」が前提とされると、「Pでない」が結論されます。これは正しい推論です。

(例:「猫である、ならば、ほ乳類である」が前提されるとき、「ほ乳類でない、ならば、猫ではない」は妥当な推論です)

 

しかし、同じく「PならばQ」が前提であるとき、「Qである」が前提とされたときに、「Pである」を結論してしまったとすると、これは誤った推論になってしまいます。この点については、「逆は必ずしも真ならず」の格言とともに記憶されている方も多いと思います。

(例:「猫である、ならば、ほ乳類である」が正しいとき、「ほ乳類である、ならば、猫ではある」は必ずしも正しくありません。「犬である」や「人である」も正しいからです。逆は必ずしも真ではないのです。

 

人間は、この手の推論が得意ではありません。現代人も論理的な思考という点においては二千数百年前の古代ギリシア人とさしたる違いはないのかもしれません。それを明らかにしてくれるのが「4枚カード問題」です。

 

「4枚カード問題」は心理学において、論理的な思考能力を調べる課題として知られています。以下に典型例を示しました。

 

4枚カード問題:

「A」「K」「4」「9」

いま、あなたの目の前に上記の4枚のカードが並べられています。

カードの表面にはアルファベットが、裏面には数字が印刷されています。

これらのカードについては「アルファベットの母音の裏には偶数が書かれている」というルールに従ってこれらの文字や数字が印刷してあるそうです。

さて、このルールが成立しているかどうかを確かめるためには、いずれのカードをひっくり返して確認をしてみる必要があるでしょう?

 

もし時間が許せば、しばし上記の問題を考えてみてください。

あなたならどのカードをひっくり返して印刷内容を確かめるでしょうか?

 

 

 

よくある回答は、「Aと4を裏返して確認する」もしくは「Aのみ裏返して確認する」というものです。

「A」の裏面が偶数になっているかどうかを調べる必要のあることはほとんどの方が納得されるでしょう。

落とし穴は「4」の裏側を調べる必要があるかどうかという点に潜んでいます。実際には、これは必要のない行為なのです。なぜかというと、先に述べたルールは、子音については言及されていないからです。アルファベットが子音のときに、その裏側が偶数であってもルールには抵触しません。よって、偶数の数字(4)の裏側が母音か子音かを確認する必要はないのです。

 

 

正しい解答は「Aと9を裏返して確認する」ことです。

奇数である「9」の裏側が母音だとすると、これはルール違反になります。よって、「9」の裏側が何であるかの確認は欠かせません。

 

実は冒頭の論理学の解説がこの問題の解答を導くための説明になっているのですが、大学生にこのようなヒントなしに課題に取り組ませると、正答率は10%に満たないそうです。

 

上記の例から示されるように、論理的思考は人間が自然に行っている思考様式になじまないのですが、その理由についても考察していくことにしましょう。

 

 

【今回のテーマに関する評価】

実現度:(評価なし)

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