統計的仮説検定の考え方(2)
前エントリーのつづきです。
統計的仮説検定では、なぜ示したい仮説をダイレクトに検証するのではなく、わざわざ帰無仮説なるものを設定し、それを棄却することによってもともとの仮説を採用するという回りくどい手順を踏むのでしょうか?
その理由を考察するための手がかりとして、まず、以下の2つの「誤り」について、どちらの方が問題だと思うか、考えてみてください。
1)あるクスリが実際はガンの特効薬ではないのに、ガンの特効薬であると主張してしまうこと
2)あるクスリが実際はガンの特効薬なのに、ガンの特効薬ではないと主張してしまうこと
多くの人は、1)の方が問題が大きいと思われるのではないでしょうか?(※脚注1)
実際、科学者たちはこのような立場をとるのです。
つまり、「間違いを本当だと主張してしまうこと」の方が、「本当のことを本当ではないかもしれないと思って主張しないこと」より罪が重い、と考えるわけです。
なお、統計学では
1)の誤りを、type-Ⅰ error(第一種の過誤)、
2)の誤りを、type-Ⅱ error(第二種の過誤)
とそれぞれ呼びます。
なお、統計的仮説検定では、「帰無仮説を本当と主張してしまう」第一種の過誤の確率が5%以下(あるいは1%以下)になるように、判定の基準を据えています。
もともと示したい仮説が、「新開発のクスリが、ガンを治癒する」という内容である場合、帰無仮説は「新開発のクスリはガンに効かない」になります。
統計的仮説検定を行い、帰無仮説が有意水準5%で棄却されたとしますと、上の例では「新開発のクスリはガンに効かない」という仮説が正しいのは5%のちいさな確率であるから、これを採択しない、ということを意味します。
5%の危険率で、クスリはガンには効かない可能性が正しいのだけど、まずはクスリには効果があるものだと考えましょう、というわけです。
脚注1
もちろん、2)はその消極性(?)ゆえに、本来助けられたかもしれない人たちを助けなかったという意味でそれなりに問題が大きいと判定される方もいらっしゃるでしょう。
たとえば、命に関わる難病に苦しんでいる患者さんは、効果があるかもしれないクスリがあるのなら、その難病に効く可能性が高くなくとも、一刻も早く認可してほしいと思うかもしれません。