脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

特許を取得しました

私が勤めている会社で、つい先日、初めての特許を取得しました。

特許出願中から特許取得済みになったので、社員一同安堵感に包まれました。

 

特許技術の内容は「集団を対象とした脳活動の同期度によるコンテンツ評価システム」です。

 

現在は、主に脳波計測装置を用いてCM等の映像・音声コンテンツの評価のために本特許システムを使用しています。映像コンテンツのどのシーンで集団の脳活動の同期が高まっているかを定量的に評価することができます。今後は、映像コンテンツにかぎらず、音楽素材や演説(スピーチ原稿やスピーチそのもの)等々の評価に適用したいと考えています。

 

 

なお、主に脳波計測を用いている理由ですが、CMのような映像コンテンツは1カットの時間が短いので、特定のシーンへの反応を調べるためには、脳血流の計測にもとづく方法論では、時間分解能が足りないと考えられるためです。

 

 

まず、技術的な観点から従来の方法論との違いについて説明したいと思います。

 

従来の生理心理学的調査では、脳活動を調べるときに、個々人の脳活動を測り、特定の測度(たとえばアルファ帯域活動のパワーや事象関連電位など)を取得し、参加者集団について加算平均をとる、という方法が一般的でした。

 

脳波の出方には個人差があります。たとえば、頭皮上に設置した脳波用の電極をもちいたときに、アルファ帯域活動がハッキリ観測できる人とそうでない人がいます。このような2人の脳活動のアルファ帯域のパワーの平均値の変化を時系列的に記録したとします。このとき前者の人のアルファ帯域のパワーが顕著な増加傾向を示し、もう片方の後者の人のアルファ帯域のパワーが減少傾向を示したとします。すると、平均値を見ただけでは、アルファ帯域のパワーは上昇傾向を示したように見えてしまいます。実際には、半分の人は上昇し、半分の人は下降したわけですが、平均値がパワーの大きい個人の値に引きずられてしまったわけです。

 

脳波の同期度を調べる方法では同様のデータから異なった情報を得ることができます。上記の例と同様に2人のアルファ帯域活動のパワーの時系列変化のデータについて考えましょう。今回は2人の脳活動の平均値ではなく、同期度について見てみます。すると、両者の脳活動がともに上昇した場合には同期は高まりますが、片方が上昇し片方が下降した場合は正反対の傾向を示したことになるため同期度は低くなります。また、この場合、元の脳波パワーの出方の大小の影響は受けづらくなります。もともと脳波パワーの大きい人は大きい人なりの、小さい人は小さい人なりに、当該の周波数帯域の活動のパワーが増加/減少する方向に動いたかどうか、そしてその方向性が相手と同じだったかどうかが問題になるからです。パワーの水準に関係なく両者の特定の周波数帯域の活動が共通して大きくなったら同期度は高まるというわけです。ここに、パワーの値そのものを平均する従来の方法論との違いがあるのです。

 

引き続きのエントリーでは、コンテンツ評価における同期度の意味合いについて解説をしたいと思います。