脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

報酬系(8) wantingとliking

先のエントリーで、レバーを押すことで、脳内の報酬系に電流が流れるようなシステムを構築すると(すなわち、脳内自己刺激でドーパミンニューロンの活動を引き起こせるようになると)、ラットは食事も忘れてレバー押しに熱中してしまうという研究を紹介しました。

 

この様子を見た研究者たちは、ラットはこの脳内刺激によって快感を得ているのだ、つまり、ラットはこの刺激を好んでいるのだ、と推察しました。

 

しかし、その後の研究で、「好むこと」すなわちlikingと「欲すること」すなわちwantingとは異なることが明らかになってきました。

 

ラットに甘い液体をなめさせると、おいしそうにペロペロとなめます。この様子から、ラットは甘い液体を好んでいるのだと推定できます。

 

さて、ラット君にはかわいそうですが、ここで報酬系を破壊してしまいます。

 

もし、報酬系が「好むこと=liking」を表現しているのであれば、報酬系を破壊してしまった後では、ラットは甘い液体をなめてもおいしいとは感じられなくなってしまうはずです。

 

しかし、報酬系を破壊されたラットでも、甘い液体を与えられると、やはりおいしそうな表情をするのです。つまり、「好むこと=liking」を表現している領域は報酬系とは別に存在するということがわかりました。

 

では、報酬系の破壊によって何が起こるのかというと、報酬を欲しがらなくなるのです。

 

どうやら、wantingとlikingは別々の神経機構によって担われていて、報酬系は(liking(つまり「快」そのもの)ではなく)wantingに関連するのだと考えられるようになってきました。