トレーニングを積めば、(成人でも)脳の白質の容積が増える!
もう大人だから、成長期の子どものときのように柔軟に脳が変化していくことはないのではないかと思い込まれている方はいないでしょうか?
実は脳は変わり続けます。学習を行ったり、環境の変化に対応したりすることで、脳は常に変化していきます。そのような性質を「可塑性(plasticity)」と呼びます。脳は可塑性を持っているのです。
環境の変化に適応することで、脳の灰白質(かいはくしつ)と白質(はくしつ)が変化します。
灰白質は大脳新皮質の表面にある厚さ2・3mmの層で、ニューロン(神経細胞)が詰まっています。エルキュール・ポワロの「灰色の脳細胞」という言葉でお馴染みですね。インターネットで検索すれば、実際の脳の写真も観られます。
白質は、ニューロン同士をつなぐケーブルである神経線維の集まりで、大脳の切り口を観たときに、白い色をしているので、白質と呼ばれます。
灰白質が変化をすることは以前から知られていたのですが、白質も変化をすることの確かな証拠はありませんでした。2009年のNature Neuroscience誌に発表された研究がこの点を明らかにしました。
調査に参加したのは18歳から33歳の成人男女48名です。
まずは、fMRIで脳の構造画像を撮像します。
ついで、参加者をランダムに半分に分け、片方のグループ(トレーニング群)にはジャグリングを行ってもらい、残りの半分のグループ(コントロール群)にはジャグリングは行ってもらいませんでした。
トレーニング群は“3-ball cascade”という3つの球を使ったジャグリングに挑戦します。日に30分、週に5日、6週間のトレーニングを行います。
6週間後、再びトレーニング群とコントロール群の両群の参加者の脳の構造画像を撮像し、どのような変化があったかを調べました。
すると、トレーニング群の脳では、灰白質と白質の両方に容積の変化が認められました。右の後部頭頂間溝の白質の容積が増えました。さらには後頭葉や頭頂葉、頭頂間溝などの灰白質の密度も高まったのです。
ジャグリングは、運動と視覚情報/空間情報とをうまく統合させることで可能となる複雑な運動です。このような情報処理に関わる脳の領域が変化することで、ジャグリングという新しい技が獲得できたというわけです。
新しいことにチャレンジすることで、灰白質や白質の密度変化・容積変化をとおして、成人の脳でも成長する余地があるのです。
【参考文献】
Scholz, J., Klein, M. C., Behrens, T. E., & Johansen-Berg, H. (2009). Training induces changes in white-matter architecture. Nature neuroscience, 12(11), 1370-1371.