脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

アナグラムと脳活動

与えられた文字列を適切に並び替えることで、意味のある文字列に変換する遊びのことをアナグラムといいます。

 

さっそくですが例題です。 

下記の文字列を並べなおして、ことわざを完成させてください。

 

あぼるぬたいあもけるうばに

(本当は、もとの文字列も意味を持つものだと恰好いいのですが…)

(解答は本エントリーの最後で)

 

 

アナグラムの興味深いところは、

文字列を順繰りに並べ直すことで解答にたどり着く場合と、ひらめきが天から降ってきて突然に解答に思い至る場合とがあることです。

 

前者を「探索的な答え=search solution」

後者を「洞察的な答え=insight solution」

 

と呼ぶことにしましょう。

 

アナグラムの問題を出されたときに、短時間でパッと答えが思い浮かび、かつ、わかったぞ!という情動的な反応を伴う場合は、洞察的な解答であると考えられます。

 

すなわち、アナグラムを解いている際の脳機能計測を行うことで、ひらめき(洞察)によってパッと答えがひらめいた場合と、そうでない場合との脳活動の違いについてあきらかにできる可能性があるのです。

 

Aziz‐Zadehらは、12名の成人男女がアナグラムを解いている際の脳活動を計測し、回答時間の速さと、洞察的な解決だったかどうかに関する主観報告から、洞察的な解決が起きたときの脳活動の特徴を調べる研究をおこないました。

 

 

この結果、「洞察的」な解決の際には、“左右”の島皮質が活動していること、また、ひらめきに関連していると考えられる右側の前頭前野腹側部が活動していることがわかりました。

 

一方、遅い回答のときは「探索的」に答えに辿り着いた可能性が高いのですが、この際は“左”の島皮質が活動しました。

 

左右の脳の役割分担については、左の脳は言語的、分析的なプロセスに関わっていて、右の脳は全体的なプロセスに関わっている、というふうに考えられることが多いのですが、この研究は、左右の脳が関わってひらめきを生み出していることを示唆していると考えられます。

 

 

 

 

 

アナグラムの解答

「あぼるぬたいあもけるうばに」

→「いぬもあるけばぼうにあたる(犬も歩けば棒に当たる)」

 

どうでしょう?アナグラムは解けましたか?

そして「ひらめき」は起こりましたか?

 

 

【参考文献】

Aziz‐Zadeh, L., Kaplan, J. T., & Iacoboni, M. (2009). “Aha!”: The neural correlates of verbal insight solutions. Human brain mapping, 30(3), 908-916.

 

寺井仁. (2011). 洞察を対象とした脳機能イメージング研究に関する文献の紹介. 認知科学, 18(3), 547-553.