「ラットにもある他者をおもいやる心」
わたしたち人間には共感能力があり、おもいやりの気持ちから人助けをすることがあります。このような能力は、ヒトや霊長類に固有のものなのでしょうか?米国の科学誌「サイエンス」に掲載された論文は、他の哺乳類にも共感にもとづき、他者を助ける能力のあることを明らかにしました。
実験にもちいられたのはラットです。ラットが罠にかかった仲間を助けるかどうかが調べられました。そしてラットがじっさいに仲間を助けることが示されたのです。
しかし、本当に、ラットは罠にかかって困っている仲間を共感能力にもとづき助けたといえるのでしょうか?単に、罠を解除することによろこびを得ただけ、という可能性はないでしょうか。遊びをする動物もいますから、好奇心や遊び感覚で罠に近づいて、たまたま罠を解除しただけかもしれません。それが傍から見ると、仲間を助けたように見えただけではないのでしょうか?
この点を検証するため、研究者らは、罠がからっぽの場合や、罠のなかにオモチャのラットが入っている場合についてもラットの行動を調べました。これらの複数の条件のなかで、仲間が罠にかかっている場合に、もっとも高い頻度で罠を解除することが観察されました。つまり、好奇心から罠を解除しているというよりも、罠にかかって困っている仲間を助けるために罠を解除しているという解釈の方が妥当であると考えられるわけです。
さらに興味深い結果もえられています。2つの罠を用意し、片方には仲間のラット、もう片方にはラットの好物であるチョコレート片を入れておきます。このとき、ラットは仲間を助けてから、チョコレートを分け合ったのです。仲間を助ける前にチョコレートの罠の方を解除すれば、チョコレートを独り占めできるのにそうしなかったということは、ラットの仲間を救う行動が利他的な動機にもとづくものであることを示していると考えられます。
動物たちの社会性のありかたに斬り込む行動研究はこれからますます盛んになっていくものと思われます。今後の研究の進展が楽しみです。
Bartal et al., Empathy and Pro-Social Behavior in Rats. Science 334 pp.1427 – 1430 (2011)