tDCS(経頭蓋直流電気刺激)とは
近年、経頭蓋磁気刺激法(TMS)により、神経活動を増強・あるいは抑制して、どのような臨床的・認知的効果が現れるかを調べる研究が多数なされてきました。TMSは8の字型のコイルに電流を流すことで、磁場の変化を引き起こし、頭蓋を経て脳内の神経活動に影響をおよぼします。難点のひとつは、実験を行う際に医師の立ち会いを必要とすることです(※注)。
TMSより手軽な方法論として注目を集めているのが、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation, tDCS)です。tDCSは頭皮上に設置した2枚の電極の間にごく微弱な直流電流を流すことで、神経活動に興奮性あるいは抑制性の修飾を与えることができる手法です。
このような特性があるため、認知機能の増強、リハビリテーション、精神疾患への治療などへの応用が期待されています。
ところでtDCSはどのようなメカニズムによって、ニューロンの発火に影響をおよぼしているのでしょうか?
宮内哲先生の解説によると、
tDCSでは頭皮上に正負の電極を距離をおいて配置し、その間に2mA程度(数百μA〜3mA)の直流電流を流すのですが、
「これによりニューロンの静止膜電位がプラスあるいはマイナス方向に変化し、活動電位の生じやすさが変わると考えられて」おり、「基本的には陽極 (anode) の電極直下の皮質に増強効果が、陰極 (cathode) の電極直下の皮質には抑制性の効果が現れる」とのことです。
ニューロンの静止膜電位に影響を及ぼすことにより、興奮性の効果と抑制性の効果を発揮すると考えられているわけです。
引用文献:
宮内哲. (2013). 脳を測る. Japanese Psychological Review(心理学評論), 56(3), 414-454.
(※注)日本神経科学学会のガイドラインによれば、TMSの使用に際しては、
「必ず医師が立ち会い、被験者の状態をよく観察しながら実施すべきである。必要に応じてビデオによるモニターも行う。」とのことです。
http://www.jnss.org/wp-content/uploads/2012/02/04-b.pdf