脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

tDCSで報酬系を制御する

頭皮上に1mA前後(2mA程度まで)の微弱な電流を流すことで、脳機能に影響をおよぼす経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct stimulation, tDCS)が、報酬系の活動の制御に使える可能性が出てきました。

 

tDCSが顔画像の魅力度判断に影響を及ぼしうるというのです。

 

実験には18歳から37歳まで(平均22.9歳)の99人(うち47名が女性)が参加しました。実験では、140枚の顔画像(70枚が男性、70枚が女性、白人/ヨーロッパ系でニュートラルな表情をしている)の魅力度の評定を行いました。

 

参加者は、tDCSの前後で顔画像の魅力度を評定します。tDCSの時間は15分間でした。なお、顔画像の魅力度は、あらかじめ(実験に参加する99人とは別の)20人が評定し、tDSC前に提示する画像とtDCS後に提示する画像の魅力度が同じになるよう揃えました(前:3.66±1.00、後:3.66±1.02)。

 

参加者は、提示された画像に対して魅力度の評定を0〜7の8段階で行います。回答はボタン押しにより実施しました。評定のために与えられた時間は画像が表示されている最大4秒間で、回答後1秒間、自分が選んだ評定がフィードバックされました。

 

tDCSは2mAの強度で15分間実施しました。

 

tDCSの効果を調べるため、電流源となるCathodeをDLPFCの上に貼り、電流の受け取り側となるanodeをVMPFCに貼る条件(メイン条件)のほか、装置を取り付けるだけで効果の期待される電流は流さないシャム条件と、電流を流す向きを逆にするActive sham条件と全部で3条件が比較されました。

 

この中で、メイン条件の場合にtDCSの前後で、魅力度評定が有意な上昇を示しました。

さらにメイン条件の後には、ドーパミン神経の起始核である腹側被蓋野(VTA)において活動の上昇が見られました。

 

この実験により、頭皮上からの電流刺激により、報酬系の活動がコントロールできることが明らかになりました。

 

パーキンソン病統合失調症うつ病などの精神疾患ではドーパミンの分泌異常など報酬系の活動に障害が起こることがしられています。今回の技術はこれらの疾患患者に対する安全な報酬系制御技術の開発に応用される可能性があります。

 

参考文献:

Chib, V. S., Yun, K., Takahashi, H., & Shimojo, S. (2013). Noninvasive remote activation of the ventral midbrain by transcranial direct current stimulation of prefrontal cortex. Translational psychiatry, 3(6), e268.