脳 Brain, No Life(仮)

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チンパンジーに最終提案ゲームをプレイしてもらうと・・・(4)ヒトとチンパンジーの振る舞いの違い

 

同内容の実験をヒトに対しても行うと、固定案の拒否率はチンパンジーの実験結果とは大きく異なってきます。

 

下図は、代替案が5/5、2/8、8/2、10/2のときに、固定案8/2が応答者によって拒絶された割合をグラフにしたものです。白い棒グラフがヒトで実験を行った場合の応答者の拒否率、黒い棒グラフがチンパンジーの場合の拒否率です。

 

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なぜ、同じ8/2の提案なのに、その拒否率が変わってくるのでしょうか?

それは同じ不公平な提案をする(固定案を選ぶ)にしても、代替案との関係によって、その意味が変わってくるからです。

 

 

各提案内容について改めて確認しましょう。

固定案は「提案者8単位、応答者2単位」なので、それだけを見ると不公平な提案ということになります。しかし、これがどれくらい不公平なのかは、もう片方の提案内容との相対的な関係性の中で決まります。

つまり、AからDのどの案が比較対象の案になるかによって、固定案の不公平さの度合いが変わってくるのです。

 

たとえば、比較案が5/5(5対5の公平な分配案)であれば、固定案は応答者にとっては不公平な案として受け止められるでしょう。提案者は「5:5」の提案もできたはずなのに「8:2」の提案を選んだということは、あからさまに不公平な提案を応答者につきつけたことになるわけです。

 

一方、比較案が10/0(10:0の最も不公平な分配案)であれば、固定案(8/2)を提案したとすれば、提案者はエサを独り占めしてもいいところを、応答者に2単位分けてくれる提案を選んだわけですから、応答者側にとってはマシな提案をしてくれたことになります。

 

 

チンパンジーがこれらのことを考慮するのであれば、代替案が5/5のときの方が、代替案が10/0のときよりも固定案(8/2)の拒否率が上がるはずです。

 

しかし、グラフをご覧いただければわかるとおり、実際にはそのような結果にはなっていません。少なくともこの実験のセッティングにおいては、チンパンジーは相手の意図を理解していないように見えます。

 

一方、ヒトは、代替案との比較の中で固定案が相対的に公平か不公平かを見極め、代替案が10/0のときに固定案を提案された応答者は、寛大にそれを受け入れる(=拒否率が低くなる)傾向が見られます。

 

ヒトはマインドリーディングの能力が高いので、提案者の意図を読み解いて、応答内容を変えているということができそうです。

 

 

参考文献:

Jensen, K., Call, J., & Tomasello, M. (2007). Chimpanzees are rational maximizers in an ultimatum game. science, 318(5847), 107-109.