脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

人生におけるストレスフルな出来事に対する耐性と遺伝子の関係

 

人生にはさまざまな出来事(event)が起こります。

楽しい出来事もあれば、つらい出来事もあるでしょう。

 

つらかったり悲しかったりするストレスフルな出来事が続けば、うつ病を発症する可能性が高くなります。

しかし、つらい出来事を経験したからといって、すべての人がうつ病を発症するわけではありません。

 

では、うつ病を発症する人としない人の間にはどのような違いがあるのでしょうか?

Caspiらは、セロトニントランスポーター遺伝子の違いがストレス耐性の違いを生み出していることを示唆しています。

 

セロトニン神経伝達物質のひとつで、脳内でセロトニンが減少すると不安を感じやすくなります。

 

セロトニントランスポーター遺伝子には、遺伝子の中の特定のくり返し配列の長さによってLongタイプとShortタイプの2種類があります。両親からこれらの遺伝子を受け継ぐため、「LL型」「LS型」「SS型」の3つの組み合わせが生じることになります。

 

L型はセロトニン輸送体の発現量が多いのに対し、S型は少ないことが原因で、S型の遺伝子を持つ人は不安を感じやすくなると考えられています。

 

 

研究では、調査対象者が21歳〜26歳までの間に受けたストレスフルなライフイベントの数と、26歳時点でのうつ病の発症率の関係が調べられました。イベントは14種類に分類され、雇用、資産、住宅、健康、および人間関係に起因するストレス要因が含まれています。

 

次のことがわかりました。

Sタイプの遺伝子型を持つ人は、ストレスフルなイベントを3つ経験した場合に、うつ病の発症率が25%以上に高まります。4回以上だと30%を超えます。

一方、Lタイプの遺伝子型を持つ人は、ストレスフルなイベントを経験しようがしまいが、うつ病の発症率はおおよそ10数%にとどまります。

 

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つまり、(少なくとも20代前半くらいまでの若い時期までは)S型遺伝子を持つひとは、L型の遺伝子を持つ人に比べて、ストレス耐性が低いといえそうです。S型遺伝子を持つひとは、ストレスをもたらすイベントとのつきあい方をうまくこなす必要があるのかもしれません。

 

 

なお、この研究ですが、2016年1月6日時点で被引用回数が6677回(!)もあるようです。すごいですね。

 

参考文献:

Caspi, A., Sugden, K., Moffitt, T. E., Taylor, A., Craig, I. W., Harrington, H., ... & Poulton, R. (2003). Influence of life stress on depression: moderation by a polymorphism in the 5-HTT gene. Science, 301(5631), 386-389.