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脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

ジル・プライスさんの脳

以前紹介した優れた自伝的記憶の持ち主であるジル・プライスさんについての研究の紹介です。

 

2000年、ジル・プライスという女性が、記憶研究の第一人者である神経科学者James McGaugh(マッガウ)に、「自分は8歳以降のすべての日の、曜日、自分自身に起きたこと、世の中で起きた重大な事件について詳細に覚えている」という手紙を出したことがきっかけとなり、自分自身に関する記憶=自伝的記憶について、常人とは比較にならないくらい詳細に記憶している人が存在することが明らかになった。

 

マッガウは、この能力を「非常に優れた(高い)自伝的記憶(highly superior autobiographical memory, HSAM)」と名付けた。

 

その後見つかったHSAMを持つ人々は、

個人的記憶に関する記憶課題の正答率が85%であり、

一般人を集めた対照群の人たちの成績8%に比べて突出して高かった。

 

彼らの脳は、普通の人たちとどこが異なるのだろうか?

 

マッガウ教授らのグループの研究によると、側頭葉と前頭葉の間をつなぐ神経線維の束である「鉤状束(こうじょうそく), uncinate fascicle」の接続が一般人よりもよかったという(下図)。長期記憶が蓄えられる側頭葉からの情報の引き出しが、普通の人より並外れて効率的である可能性が示唆される。

 

左の鉤状束(上側頭回(じょうそくとうかい)の白質の中)の容積が、一般人よりも大きい。

 

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また、記憶の符号化や検索に関わる海馬傍回(かいばぼうかい)の神経線維(白質(はくしつ))の量も多かった。(下図)

 

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このような脳の構造の違いが、HSAMを持つ人と、一般人の能力の違いを生み出している可能性がある。

 

 

参考文献:

LePort, A. K., Mattfeld, A. T., Dickinson-Anson, H., Fallon, J. H., Stark, C. E., Kruggel, F., ... & McGaugh, J. L. (2012). Behavioral and neuroanatomical investigation of highly superior autobiographical memory (HSAM). Neurobiology of learning and memory98(1), 78-92.