脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

乳児(infant)の認知をしらべる

心理学や脳科学では、人の心に「主観」、「行動」、「生理」の3つの方向からアプローチする、というお話を以前しました。

 

人が何を考え、どう感じているのかを詳細に知るためには、参加者の言語報告に頼る必要があります。つまり主観報告は重要な情報源になるわけです。けれども、それだけでは取りこぼされてしまう情報が多々出てきてしまいます。本人が隠したいこと、本人も気づいていないこと、これらはコトバで表現することはできません。行動計測や生理計測は、このような言語報告で得られないような情報を取得するための有力な手法になりえます。

 

ところで、行動計測や生理計測などの主観評価によらない調査手法が、その効用を如実に発揮するケースがあります。それは、参加者自身が言語を操れないような場合ー赤ちゃんはその代表例ーです。

 

日本語では生後1年くらいまでの赤ちゃんを「乳児」といいます。乳飲み子という意味ですね。一方、英語では乳児のことをinfantといいます。これは「話さない」という意味のラテン語から派生したコトバです。つまり英語圏では、生後1年くらいまでの赤ちゃんは「物言わぬ存在」であるという認識なのです。

 

物言わぬ存在である赤ちゃんのココロに迫るために、心理学者たちは多くの手法を編み出してきました。その一例をご紹介しましょう。

 

赤ちゃんは生まれてまもなく、人の顔(やそれに類似する視覚刺激)に対する興味を持ち始めます。これは、人の顔とそれ以外の視覚刺激を並べて見せてやると、人の顔を長く見ることから明らかにされました。このように、赤ちゃんの注視時間を比較することで、赤ちゃんが興味を持っている対象を明らかにする手法を「選好注視(preferential looking)法」と言います。これは発達心理学における代表的な調査方法のひとつです。

 

選好注視法を活用することで、新生児の段階ですでにお母さんの顔と見知らぬ人の顔を区別すること、乳児はアイコンタクトする顔を(目を逸らしている顔より)好むこと、infant-directed speechと呼ばれる発話法(赤ちゃん向けに行われる抑揚のついた独特の話し方)を好むことなど、多くの事実が明らかにされました(※1)。

 

選好注視法は、赤ちゃんが好む刺激(視覚的デザインetc.)の評価などにも利用されています。