脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

騙される知覚(perception)、騙されない行為・行動(action)

昨日のエントリーでティッチナー錯視(エビングハウス錯視)についてご紹介しました。 いわゆる、大きさの対比に関する錯視というもので、実際は同じ大きさの円でも、その周囲をより小さい円に囲まれていれば真ん中の円は大きく見えますし、より大きい円で囲…

大きさの対比錯覚

人の知覚は、外界にある事物をコピーのように写しとったものではありません。脳の仕組みに合わせて、外界の事物はさまざまな修飾を受けて知覚されているのです。たとえば同じ15度の水でも40度のお湯に触った後にはとても冷たく感じますし、氷水に触れた後に…

偶然の発見がもたらしたノーベル賞:V1の傾き検出ニューロン

ヒューベルとウィーゼルは、視覚研究の業績が認められて、1981年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。 彼らの業績の中で特に有名なのが、一次視覚野のニューロンが特定の傾きをもった線分に反応選択性を持つことを見出した電気生理学研究です。 彼らは一…

サッケード中は視覚情報は遮断される

わたしたちは、モノを見る際に、目でモノを追うことがあり、 これを、追跡眼球運動(eye tracking movement)といいます。 追跡眼球運動には2種類の動きがあります。 「サッケード(saccade)」と「滑動性追跡眼球運動(smooth pursuit eye movement)」で…

「嗅覚?」「臭覚?」どっちが正しい?

人間のもつ五感を挙げてみると・・・ 視覚(しかく) 聴覚(ちょうかく) 触覚(しょっかく) 味覚(みかく) 嗅覚(きゅうかく) です。 なお、神経科学的な観点から言えば、 第六感として「固有感覚」が挙げられます。 ところで、ごくまれに「嗅覚(きゅう…

脳細胞の数は115億個、体全体の細胞の数は37兆2000億個

ひと昔前までは人間の細胞の数は60兆個程度といわれていましたが、 近年になって、37兆個、あるいは37兆2000億個(3.72 × 1013 個)という新たな推計値が発表されました。 さて、脳細胞の数はどれくらいでしょう? 大脳皮質だけで140億個、脳全体で1000億個…

書籍紹介:「扁桃体」

昨日のエントリーでは、シャープな形のモノ(object)を見ると扁桃体が活動する、という話を紹介しました。 扁桃体は、恐怖の感情などを司っており、自分にとっての脅威からの回避動機の生成などに関わっているものと考えられます。 大学院のとき(お隣の)…

シャープなモノに反応する扁桃体

記憶を司る海馬の先端に、アーモンド状の構造が扁桃体(amygdara)です。 恐怖(fear)な表情の顔画像などを見たときに強く反応することが知られています。扁桃体を切除されたサルが、正常なら怖がるはずのヘビを怖がらなくなる実験映像は有名なのでご覧にな…

実験をしてきました

昨日は千代田区の某所にて実験を行ってきました。 映像を見てもらい、その脳反応を調べるという実験です。 一日で12人の参加者のデータをとりました。 場所柄もあって祝日は閑散としていて実験には好適な環境でした。 参加者は大学生のみなさんで、授業と授…

オマキザルは不公平に敏感:後編

昨日のエントリーのつづきです。 「公平な条件」(Equality test) これは、自分も仲間もトークンと引き換えにキュウリがもらえるという条件です。 この条件のときは、実験者からトークンを渡されたオマキザルは素直に課題をこなし、キュウリを食べます。 「…

オマキザルは不公平に敏感:前編

昨日のエントリーでは、共感にもとづき仲間を助けるラットのお話を紹介しました。本日も動物ネタをお届けします。 人間は不公平感を感じる動物です。 同じ仕事なり作業なりをこなしているのに、他人だけが評価されていたら、不満や嫉妬の感情を覚えることが…

「ラットにもある他者をおもいやる心」

わたしたち人間には共感能力があり、おもいやりの気持ちから人助けをすることがあります。このような能力は、ヒトや霊長類に固有のものなのでしょうか?米国の科学誌「サイエンス」に掲載された論文は、他の哺乳類にも共感にもとづき、他者を助ける能力のあ…

赤ちゃんはアイコンタクトを好む

以前、アイコンタクトがヒトの報酬系(腹側線条体)を活動させるという研究をご紹介しました。 http://neuroscience.hatenablog.jp/entry/2015/08/03/213242 ヒトにとって他者の視線の情報が非常に重要であることを示唆しています。 赤ちゃんも、アイコンタ…

乳児の顔の識別能力

私たちは、人間の顔の違いを認識することができます。AさんとBさんとが違う顔であることを苦もなく判別する能力を持っています。 しかし、これが人間以外となるとどうでしょうか? 動物園やサファリパークで、動物の群れを見たときに個体を判別できるでしょ…

赤ちゃんの認知を研究する

赤ちゃんの認知能力はさまざまな角度から研究されています。 たとえば、赤ちゃんには簡単な計算能力は備わっているのでしょうか? そのような疑問を持った場合、検証するためにはどのような実験的手続きをとればいいのでしょうか? 物言わぬ存在であることを…

メンタルローテーションと脳

9/7のエントリーで、メンタルローテーション課題の際には、運動前野なども活動することについて脚注で触れました。 http://neuroscience.hatenablog.jp/entries/2015/09/07 それについて文献を紹介します。 Richterらはメンタルローテーション課題を実行中の…

脳波計測装置紹介:ポリメイトミニ

数多くの生体計測機器の製造・販売をおこなっているミユキ技研の製品のひとつに「ワイヤレス生体計測装置 Polymate Mini AP108」があります。 http://www.miyuki-net.co.jp/jp/product/researchEquipment/Mobile/AP108.shtml 8つの電極によって、脳波・心電…

video game(ドライブシミュレーター)中の脳活動

video gameを行っている際、脳はどのように活動しているのでしょうか? ドライブシミュレーションゲームをしているときの脳活動をfMRIで調べた研究があります。この研究によると、ゲームのプレイ中は、休憩中やゲームの映像を(プレイせずに)見ているときと…

盲視

昨日のエントリーで、「レナードの朝」の中の嗜眠性脳炎の患者の様子を描いたシーンを紹介しました。 ふと気になって、盲視(blingsight)の映像はないものかなと思って探してみたところ、ちゃんと見つかりました。 Blindsight - Blind man can see and avoi…

オリバー・サックス氏が亡くなりました

先月の末のことですが、「レナードの朝」「妻を帽子とまちがえた男」などの著作で知られる神経科医、作家であったオリバー・サックス氏逝去のニュースが流れました。 「妻を帽子とまちがえた男」は、相貌失認、前向性健忘、身体失認、幻肢、サヴァン症候群な…

精神的ストレスと唾液アミラーゼ活性の関係

以前のエントリーで、ストレス評価のための生体指標として、唾液アミラーゼについてご紹介しました。(8月25日のエントリー) ストレスを与えるための課題のひとつにスピーチ課題があります。 人前でスピーチをすることは、よほど慣れている人でなければ非常な…

視覚探索と背外側前頭前皮質(DLPFC)

探すべき目標の刺激を、様々な妨害刺激の中から探し出すことを「視覚探索」(visual search)といいます(※1) 森の中で獲物や天敵を見つけるといった生存に関わる場面から、イラストの中の隠れたパターンを探し出すようなゲームを行っているような場面でも、…

アナグラムと脳活動

与えられた文字列を適切に並び替えることで、意味のある文字列に変換する遊びのことをアナグラムといいます。 さっそくですが例題です。 下記の文字列を並べなおして、ことわざを完成させてください。 あぼるぬたいあもけるうばに (本当は、もとの文字列も…

鏡文字を観たときの脳活動

イタリアのルネッサンス期を代表する芸術家にレオナルド・ダ・ビンチがいます。レオナルドの活躍の幅は広く、芸術活動にとどまらない、様々な業績を遺しました。 レオナルドが鏡文字で書いた文書が残っていることは有名な事実です。 なぜ鏡文字だったのかに…

歳をとっても脳は集中力を取り戻せる:後編

さて、落ちてしまった集中力は取り戻せるのでしょうか? どのような訓練に取り組めば集中力は高まるのでしょうか、そしてそれをどのように計測したらよいのでしょうか? 集中力や認知負荷の指標として、脳波計測で測れる前頭正中部のシータ帯域パワーが知ら…

歳をとっても脳は集中力を取り戻せる:前編

「若いころに比べて集中力が落ちたな、記憶力が落ちたな」と感じていらっしゃる方は多いことと思います。 「幼いころには恐竜図鑑を眺めてたくさん恐竜の名前を覚えたのに、大人になったらすっかり新しい知識が覚えられなくなった」、「小学校のころにはさし…

トレーニングを積めば、(成人でも)脳の白質の容積が増える!

もう大人だから、成長期の子どものときのように柔軟に脳が変化していくことはないのではないかと思い込まれている方はいないでしょうか? 実は脳は変わり続けます。学習を行ったり、環境の変化に対応したりすることで、脳は常に変化していきます。そのような…

表情筋計測の使い道:デザイン研究への応用

これまでも何度か述べたとおり、脳波計測を含む生体計測(バイオメトリクス)を行うことの意義は、インタビューや質問紙調査などの言語報告では得られないデータを得られるところにあります。 クルマのデザインの研究に表情筋計測を応用した事例があります。…

表情計測と表情筋計測

英語では、facial codingやfacial trackingなどと呼ばれる表情計測の技術も進歩しており、マーケティング調査などでも広く応用されています。 表情径計測では、webカメラなどを使って、調査参加者の顔の映像を撮り、表情に現れる情動の推定を行います。 世界…

割引率の高い人(衝動性の高い人)はセロトニンが少ない

以前のエントリーで、割引率、割引因子について述べました。 http://neuroscience.hatenablog.jp/entry/2015/08/15/144906 直近の報酬と、少し未来の大きな報酬とのどちらを選択するかによって、調査参加者の衝動性の高さ(割引率の高さ)を調べることができ…