脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

偶然の発見がもたらしたノーベル賞:V1の傾き検出ニューロン

ヒューベルとウィーゼルは、視覚研究の業績が認められて、1981年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。

 

彼らの業績の中で特に有名なのが、一次視覚野のニューロンが特定の傾きをもった線分に反応選択性を持つことを見出した電気生理学研究です。

 

彼らは一次視覚野(V1)のニューロンがどのような刺激に対して反応するかを調べるため、麻酔をかけたネコの脳にニューロンの活動を計測するための電極を刺入し、さまざまな視覚刺激を見せました。OHPシートに視覚刺激(丸や三角など)を印刷したものを刺激として呈示したのですが、ネコのV1のニューロンは反応してくれません。ところが、ヒューベルがOHPシートを交換のために動かしたとき、調べていたニューロンが不意にバババッと反応したのです。

 

いったい何がニューロンを活動させたのでしょうか?

 

それはなんと・・・OHPシートの「縁」だったのです。

 

OHPシートの縁がスクリーン上に影をつくり、「線分」刺激になって、ある特定の角度でニューロンの受容野を「偶然」横切った際に、ニューロンを活動させたのです。方位選択性ニューロンが発見された瞬間でした。

 

ヒューベルとウィーゼルの発見は偶然でしたが、脳の視覚システムを調べるための装置を含めた実験系を作り上げ、実験を行ったからこその発見でした。

 

ふと思ったのは、これは昔ながらのOHPシートだからこそ実現できた「偶然」だった、ということです。現在のプレゼンテーションソフトを使った実験では、一次視覚野における方位選択性ニューロンの発見はだいぶ遅れていたかもしれません。

 

貴重な証言動画も併せてご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=IOHayh06LJ4