脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

記憶の定着のためには睡眠が重要

受験シーズンですね。 世の中には「寝る間を惜しんで」学業に打ち込んでいる(きた)学生さんも多いかもしれません。「1時間の睡眠を削れば、1時間分多く勉強ができる」そう思って勉強を頑張ってきた人も多いことでしょう。 しかし、睡眠不足は学習・記憶…

心地よい香りについての近赤外線分光法(NIRS)研究

「母乳やバニラの香りは、乳児の前頭葉の血流の増加を引き起こす(NIRS研究)」 言葉を話せない赤ちゃんは、香りをどう感じているのでしょうか? 感想を直に訊くことはできませんが、脳の反応なら調べることができます。 実際、生後間もない乳児を対象にNIRS…

心地よい香りについての脳波(EEG)研究

「心地よい香りは脳波の前頭部非対称性を左脳優位に(EEG研究)」 香りの心地よさを脳波で調べることはできるのでしょうか? ポジティブ感情や接近動機に関係すると考えられている前頭部非対称性をもちいて、香りの心地よさを分析した研究があります。 参加…

音楽を聴いているときの脳活動

今回も2本立てで、音楽とそれを聴いているときの脳活動の関係性についてご紹介します。 「感動する音楽はドーパミン神経を活性化する(fMRI, PET研究)」 参加者に感動して鳥肌が立つ(chillが起きる)音楽を持ってきてもらい、それを聴いている際の脳活動…

青色光の眠気低減効果について:脳波(EEG)研究とメラトニン分泌量の計測

青色光に関する研究の紹介。短めの内容を2本立てでお届けします。 「青色光(波長460nm)で、注意力が向上、眠気が低減する(EEG研究)」 青色光は眠気を覚ます効果があると言われています。 これに関して、実際に調査参加者に青色光を浴びせて効果を調べた…

中程度の瞑想の修行を積むと、瞑想中に海馬が活動するようになる(3)

実験の結果です。 結果: 中程度に経験のある瞑想者の瞑想中(無言のマントラ瞑想中)に、もっとも統計的に有意な活動が見られたのは、右の海馬でした。その他の部位として、両側の中帯状回、両側の中心前回、そして右の楔前部が活動しました。 ワード条件で…

中程度の瞑想の修行を積むと、瞑想中に海馬が活動するようになる(2)

続きです。研究内容の紹介です。 研究では、Acem瞑想(www.acem.com)またはクンダリーニ・ヨガ瞑想(www-3ho.org)のいずれかを訓練している参加者を募集しました。参加者は8人。5人が女性で、平均35歳(21〜50歳)。参加者の訓練期間は6〜24ヵ月でした。…

中程度の瞑想の修行を積むと、瞑想中に海馬が活動するようになる(1)

ヨガや呼吸法などを含む、さまざまな瞑想法が心身の調子を整えるために活用されています。 瞑想を行うと、気分がリフレッシュして、認知的な能力が高まったように感じる人もいるといいます。 実際のところ、瞑想はどのような影響を脳に与えるのでしょうか? …

海馬の歯状回の機能低下が、加齢にともなう記憶力低下の原因&カカオの成分が改善をサポート(2):認知課題いろいろ(14)

昨日のエントリーで紹介した論文の中で、 研究者らが用いた認知課題は下記のようなものです。 研究者らはこれをModified-Benton (ModBent)課題と呼んでいます。 ModBent課題の成績は加齢とともに低下するという性質があり、本研究で使用するのに適しているの…

海馬の歯状回の機能低下が、加齢にともなう記憶力低下の原因&カカオの成分が改善をサポート(1)

加齢にともなう記憶力の低下は、海馬体(かいばたい)の中の歯状回(しじょうかい)の機能低下に関連するのではないかと考えられてきましたが、これには因果的な証拠が必要とされます。 それには、歯状回の活動低下が記憶機能低下と関連することを示すか、歯…

心地よい香りは、内側眼窩前頭皮質の活動を高める(fMRI研究)

心地よい香りと不快な香りを嗅いだときの主観的な感覚は大きく異なります。 さて、脳の反応にはどのような違いがあるのでしょうか? Rollsらは、fMRIを用いて検証実験をおこないました。 実験では、参加者に心地よい香り(pleasant odor)と不快な香り(unpl…

心地よい香りは、側坐核(ドーパミン神経系)の活動を高める(PET研究)

心地よい香りは、気分をポジティブにしてくれます。ポジティブな行動にいざなってくれることもあるでしょう。 では、心地よい香りは(不快な香りに比べて)報酬系の活動を高めてくれるのでしょうか? (統合失調症の患者と、)健康なボランティアの参加者に…

テクノ・ミュージックは、若い人の(血中の)ノルエピネフリンやβエンドルフィンの濃度を高める(血中ホルモン測定研究)

音楽を聴くと気分が変化します。 この際、体内ではどのような変化が起きているのでしょうか? それを調べた研究をご紹介します。 若い調査参加者に、テクノ・ミュージックを健康なボランティアに聴かせたところ、血中のノルエピネフリン(ノルアドレナリン)…

加齢による脳波の変化

これまでの研究から、加齢により、脳波のパワーは小さくなり、背景活動の周波数も遅くなること、また、加齢によって、P300の振幅は小さくなり、潜時は大きくなることが知られています。 しかし、normal agingにおいてEEGとERPの測度の間の統計的な関係性を示…

ランナーズハイとエンドルフィン(2)

エンドルフィンがランナーズハイの原因であることを調べるために、 Boeckerらは、ランニングによって脳の中でエンドルフィンが分泌されているのかをPET(陽電子放射断層撮影)を利用して検証しました。 参加者は10人、約2時間ランニングをしました。 走った…

ランナーズハイとエンドルフィン(1)

お正月からもうだいぶ時間が経ってしまいましたがみなさんは箱根駅伝は見られましたでしょうか?私は、ちらちらとは見ました。今年も青学が圧倒的な強さで優勝しましたね。どんなトレーニングを積んでいるのか、どのように練習に取り組んでいるのか、組織マ…

リハビリに取り組むときは前向きに

脊髄損傷後のリハビリに、患者さんがモチベーションをもって取り組むと 回復が促進されるという事実が以前から知られていました。 しかし、その神経的なメカニズムはよくわかっていませんでした。 報酬系の一部である側坐核は、 モチベーションによって引き…

かゆみを脳への電気刺激で抑える

冬になると空気が乾燥してかゆみが出て困りますね。 肌を保湿したり、かゆみ止めを利用したり さまざまな方策を取られている方も多いことでしょう。 かゆみについて生理学研究所の研究者らが興味深い発見をしました。 経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)と呼ばれ…

笑顔でハッピーに(2)

つづきです。 実験室の机の上には、直径12mmのフェルトペン、アルコール脱脂綿、ティッシュペーパーが並んでおり、実験の前に、参加者はフェルトペンをアルコール脱脂綿で拭くように指示されました。 ついで参加者たちは1つのセッションの間は各条件(「唇…

笑顔でハッピーに(1)

悲しいから泣く(キャノン=バード説)のか、泣くから悲しい(ジェームズ=ランゲ説)のかは古くからある感情研究における2大仮説です。 今回は、幸福度研究との関連で、身体から感情への影響(ジェームズ=ランゲ説)に関する古典的研究(古典的方法)につい…

ふと気になったこと

体調を崩したせいで土日で二食半くらいしか食べないでいたら危うく50kgを切るところでした(汗) 酒を飲んでいるわけでもないのに二日酔いのような症状が出たのがちょっと興味深いと思い、どんな可能性があるのかをちょっと調べてみたのですが、確度の高い情…

没頭感と幸福感

体調を崩して倒れており、更新を忘れていました。 記事の更新を楽しみにされているみなさん、すみませんでした。 2日分、更新しました。お楽しみくださいませ。 ーーーーーーーーーーー 作家の村上春樹さんが次のようなことを語ったそうです。 「集中力は、…

ベストの追求は、幸福度を下げてしまうこともある

世の中には、maximizers(最大化を目指すヒト)とsatisficers(満足化を目指すヒト)の2種類の人間がいます。 Maximizersは、満足の最大化を目指すヒトです。ショッピングの際に、自分の選択肢をくまなく比較して、自分にとって最も高い満足度をもたらして…

「モノより思い出」

「モノより思い出」。1999年からつづく日産セレナのCMのキャッチコピーです。モノを買うより、たくさんの経験をして心豊かになろうというメッセージですね。ただ思い出づくりのお出かけのためにはクルマを買わなければならないわけですが(笑) さて、モノ(…

人生におけるストレスフルな出来事に対する耐性と遺伝子の関係

人生にはさまざまな出来事(event)が起こります。 楽しい出来事もあれば、つらい出来事もあるでしょう。 つらかったり悲しかったりするストレスフルな出来事が続けば、うつ病を発症する可能性が高くなります。 しかし、つらい出来事を経験したからといって…

幸せはどう測る?:ディーナーの人生満足尺度

昨日のエントリーでは、幸福感は(ある範囲で)伝播する(happy な人は身近な人をhappyにする)、という話題を取り上げました。 このような研究を行う場合には、そもそも幸福感(happiness, well-being)などを何らかの形で測定しなければなりません。研究者…

幸せは社会的ネットワークをとおして拡散する(2)

つづきです。 この調査でいくつかのことがわかりました。 このグラフの黄色は幸せな人、緑色は中くらいの人、青色は幸せ度の低い人を表します。パッと見てわかるのは、幸せな人は幸せな人が身近にいて、幸せ度の低い人は幸せ度の低い人が身近にいるというこ…

幸せは社会的ネットワークをとおして拡散する(1)

感情が直接に周囲の人に影響を与えることは知られていましたが、社会的なネットワークを通して幸福(happiness)がどのように広がっていくかは未知の問題でした。 FowlerとChristakisは、Framingham Heart Studyのデータを用いて、この問題を検証しました。 …

健康診断で思ったこと(5)

つづきです。 この一件があったしばらく後のことなのですが、ふと立ち寄った本屋さんでとある本と出会いました。 その本には、がん、心臓病、糖尿病、アルツハイマーなど、さまざまな病気が、身体の「慢性炎症」によって引き起こされることが、近年医学の世…

健康診断で思ったこと(4)

つづきです ところで、健康診断では胸部X線検査が行われます。 おそらくは結核をみつけたり、場合によっては肺がんを見つけたりすることが検査の名目上の目的なのですが、まだ若い20代30代の受検者すべてに行う必要があるのだろうか、と私は常々疑問に思って…