ランナーズハイとエンドルフィン(2)
エンドルフィンがランナーズハイの原因であることを調べるために、
Boeckerらは、ランニングによって脳の中でエンドルフィンが分泌されているのかをPET(陽電子放射断層撮影)を利用して検証しました。
参加者は10人、約2時間ランニングをしました。
走った距離は、21.5 ± 4.7 Kmです。
その前後で気分(mood)をVAS(visual analogue scale)で計測しました。
ランニング後は、 Happiness(幸福感)とEuphoria(陶酔感)が高まりました。
さて、脳計測(脳内のエンドルフィン分泌)の計測です。
ランニング前後の参加者に放射性物質で指標づけされた物質 [18F]FDPN(フッ素18-フルオロデオキシグルコース)を注射して脳のスキャンを行います。
[18F]FDPNもエンドルフィンも脳内のモルヒネ受容体にくっつくという性質があります。
ランニングにより、エンドルフィンの分泌量が増加しモルヒネ受容体に結合すると、(結合先が埋まってしまうので)ランニング後には、[18F]FDPNがモルヒネ受容体に結合する量が減ることが期待されます。これにより、脳内でのエンドルフィンの分泌増加を推定しようというわけです。
実際にPETを使って計測をおこなったところ、ランニングの前後で、[18F]FDPN(フッ素18-フルオロデオキシグルコース)の結合が減った部位(=エンドルフィンが結合したと考えられる部位)があきらかになりました。
・OFC(眼窩前頭皮質)
・ACC(前部帯状皮質)
・Insula(島皮質)
などの領域です。
また、[18F]FDPNの結合量の少ない(=エンドルフィンの結合量の多い)人ほど、VASで測った陶酔感がより大きかったことから、ランナーズハイはエンドルフィンによって引き起こされたことが示唆されたのでした。
Boecker, H., Sprenger, T., Spilker, M. E., Henriksen, G., Koppenhoefer, M., Wagner, K. J., ... & Tolle, T. R. (2008). The runner's high: opioidergic mechanisms in the human brain. Cerebral Cortex, 18(11), 2523-2531.