脳 Brain, No Life(仮)

とあるニューロベンチャー企業の研究員のつぶやきを記録するブログ

ワインの味がわかると言えるためには:解答編

ワインのブラインドテストの判別能力がまぐれ当りではないというためには、3種類のワインの判別では不十分で、4種類のワインを判別しなければなりません。それはなぜでしょう?という問題について考えていました。

(ここまでの2エントリーは、その問題の解答を考えるためのいわば前段にあたる内容でした。)

 

X種類のワインをすべて判別できたとき、その人がワインの味の判別能力を持っていると言えるためには、まずワインの判別能力はないという前提(帰無仮説)を立て、その前提のもとで、X種類のワインがすべて判別できる確率を計算します。その確率が十分小さいとき(=5%以下)には、「ワインの判別能力はない」という前提が確からしくないと判定し、その前提を棄却するのでした。

 

なお、ワインの判別能力がない、ということは、ワインの味の判定がでたらめである、ということを意味します。

 

それでは、実際に計算してみましょう。

 

まずX=3の場合です。

目の前にグラスに入った3種類のワイン「A」「B」「C」があるときに、どれが「A」で、どれが「B」で、どれが「C」かを当てるという状況を考えます。

 

当てずっぽうで、ABCを対応させたとすると、その対応のさせかたは、3の階乗(3!)通りあります。3✕2✕1=6通りです。

全問正解はそのうち1通りだけなので、

でたらめな回答のときにすべて当たる確率は1/6=16.7%、

つまり5%より大きい値です。

このくらいの確率は、まれな確率ではないと判断されます。

すなわち3種類のワインの味当てでは、あてずっぽうでも16.7%の(比較的高い)確率で全問正解できてしまうのです。

 

 

では、X=4の場合はどうでしょうか?

でたらめに回答をするやり方は4の階乗通り、4✕3✕2✕1=24通りあります。

全問正解はそのうち1通りなので、でたらめに回答するときにすべて当たる確率は1/24=4.2%となり、5%より小さくなります。

 

よって、4種類のワインの味をすべて判別できた場合、それは判別能力がまったくない人のでたらめな判断によって生じた結果であると考えるには確率が低すぎる、と判定されるのです。(もちろん5%以下のまれな確率で生じた偶然の結果の可能性もあるわけです。つまり第一種の過誤を起こした可能性もあるということは心に留めて置く必要があります)

 

 

以上の議論より、「自分はワインの味の違いがわかる」と豪語する人がいたとき、その主張が正しいと言えるためには、(たとえば)異なる4種類のワインを用意して、すべて当ててもらう必要があるということがわかりました。

 

統計的仮説検定の立場からは、3種類のワインの味の判別をしてもらうだけでは

不十分な証拠にしかならないわけです。

 

機会があれば、実生活の中でぜひこの知識を活用してみてください。

 

 

【参考文献】

佐藤信「推計学のすすめ」講談社(1968年)