舌端現象:思い出せなくてもどかしい
「あの人の名前が思い出せない。喉元まで出かかっているのに!」ともどかしい思いをされたことのある方は多いと思います。
このように思い出せそうで思い出せない現象には、舌端(ぜったん、Tip of the tongue, TOT)現象という名前がついています。日本語では「喉元まで出かかっている」と表現するところを、英語では「舌の先まで…」と表現するのですね。
私たちは解答である名前そのものは思い出せていないのにもかかわらず、それを知っていることは知っており、しかも、「もうちょっとで解答が出てくるのに!」という主観的なもどかしさを感じているのです。
ちなみに「何かを知っている感じ=既知感」のことを、Feeling of Knowing(FOK)といいます。したがって、既知感の中で、特にもどかしさが強い状態を舌端現象と呼ぶわけです。
舌端現象が起きているとき、脳の中では何が起きているのでしょうか?
fMRIにより、その一端が明らかになってきました(近藤 2005)。
有名人の写真を見せて、それぞれの写真について
舌端現象
既知感
知っている
知らない
のいずれであるかを回答してもらいます。
主観的なもどかしさの強さは
舌端現象>既知感>知っている
の順番になるわけですが、これに相関する活動の見られる脳の領域をfMRIで探ったのです。
前部帯状皮質(ACC)や前部島領域(anterior insula, AIC)が舌端現象のときにより強く活動することが明らかになりました。ACCは能動的な注意の制御に、AICは自己の心的状態のモニタリングに関与しているのではないかと研究者らは考察しています。
【参考文献】
近藤洋史ほか「人名想起によって生じる舌端現象の脳内メカニズム」
http://www.tamagawa.ac.jp/brain/forum/reports/009.html