歳をとっても脳は集中力を取り戻せる:後編
さて、落ちてしまった集中力は取り戻せるのでしょうか?
どのような訓練に取り組めば集中力は高まるのでしょうか、そしてそれをどのように計測したらよいのでしょうか?
集中力や認知負荷の指標として、脳波計測で測れる前頭正中部のシータ帯域パワーが知られています。取り組む課題の難易度が増すと、前頭部のシータ帯域パワーが上昇するのです。
高齢者は若い人に比べて、シータ帯域パワーが低いことが知られています。
「歳をとると集中力が落ちちゃって…」の状態です。
一方、若い人は課題に取り組んでいるときには前頭部のシータ帯域パワーが強く出ます。集中度が高い状態です。
さて、ここで、高齢の調査参加者たちにvideo game(テレビゲーム)に取り組んで、認知的なトレーニングを行ってもらいます。
行うのは、ドライブゲームと、ドライブゲーム中に画面上に現れるsignをボタン押しで消す、という2種類のタスクをこなすというマルチタスクの課題です。
(研究では、ドライブだけ、signを消すだけ、を別々にこなすシングルタスクの条件も調べています。)
この課題に、一日あたり1時間を週に3回、これを4週にわたって続けてもらい、計12時間、取り組んでもらいます。
すると、マルチタスクのトレーニング後に、高齢の参加者でも前頭正中部のシータ帯域パワーが活発に出るようになることが確認されました。しかも、トレーニングしていない、ワーキングメモリー(作業記憶)の課題成績も向上したというのです。
(誤解を恐れつつもわかりやすく表現すれば、前頭部シータや課題関関の観点からは)「マルチタスクの認知課題に取り組むことにより、脳が若返った」ことが示されたわけです。
「歳をとって、集中力が落ちたなー」と悩まれている方は、ひょっとしたら認知的なチャレンジが不足しているのかもしれません。
新たな試みにチャレンジすることで、脳は甦るはずです!
【参考文献】
Anguera, Joaquin A., et al. "Video game training enhances cognitive control in older adults." Nature 501.7465 (2013): 97-101.