推論(3)
先に見たように、古代西洋の哲学者も、科学の発達により生み出された様々なハイテク製品に囲まれて過ごしている現代人も、どうやら論理的思考はあまり得意ではないようです。
純粋に論理学的な三段論法の正しい運用もさることながら、4枚カード問題のようなクイズ形式での出題に対しても、正しい結論を導き出せるのは、21世紀の現代でも少数派でしかないのです。
4枚カード問題に正しい解答を与えるためには、論理的な思考が必須なので、片方ができなければもう片方もできないのは当たり前のようにも思えます。しかし、実は必ずしもそうではありません。4枚カード問題を、実際の生活に密着した形式で呈示してみると、多くの人が正しく問題を解決できるようになるという報告があるからです。
たとえば、次の問題を考えてみてください。
Q.
いま4人の人物が酒場で飲み物を飲んでいます。
Aさんは18歳で、ドリンクを飲んでいます
Bさんは25歳で、ドリンクを飲んでいます
Cさんはオレンジジュースを飲んでいますが年齢は不詳です
Dさんはビールを飲んでいますが年齢は不詳です
「未成年はノンアルコール飲料のみ飲める」というルールが守られているかを確かめるためには、いずれの人のドリンクあるいは年齢を調べる必要があるでしょうか?
このような問題になると、「調べるべきは、Aさんが飲んでいるものと、Dさんの年齢である」ということに大半の人が気づきます。
問題の論理的な構成としては、前回ご紹介した4枚カード問題とまったく同じなのですが、実際の生活シーンに置き換えられると、筋道立てて問題を解決できるようになるわけです。すなわち、論理学の心得のない人でも、問題の出題形式によっては、十分に論理的な思考が可能であることがわかりました。
それでは、ヒトが論理的な推論を間違ってしまうのは、抽象化された純粋な論理学的推論がヒトの思考様式になじまないからであり、うまく現実問題に置き換えてやれば、論理的な間違いは減るものだ、と結論づけてしまってよいのでしょうか?
実はそうとも言い切れないのが、ヒトの思考研究、推論研究の難しいところです。
次のエントリーではそのような例について見てみることにしましょう。